連休中に仕事のある夫のお役目を仰せつかり
嫁である私は子どもふたりを連れて
義実家のお墓まいりに行ってきた。
ひとりで行くのは気乗りはしないものだが
義母の眠る墓園は
彼女の穏やかな人柄を表すかのように
静謐で整備された変わらぬ美しさで
いつも私たちを出迎えてくれる。
墓園までの道すがら
風に揺れる彼岸花が視界に入ってくる。
別名に曼珠沙華という名を持つ真紅の花。
川端康成が書いた短編小説がある。
“ここへ来る汽車の窓に、曼珠沙華が一ぱい咲いていたわ。
あら曼珠沙華をご存じないの?あすこのあの花よ。
茎がかれてから、花茎が生えるのよ。
別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい。
花は毎年必ず咲きます。”
「掌の小説 化粧の天使たち 花」より
ずいぶん昔に読んだ たった五行が全ての小説。
余計な装飾のないぎゅっと濃縮された言の葉が
当時の私には まだ手の届かない未知な大人の世界に
触れたような気がして
それがこの本をより印象深いものにした。
この五行を“詩”ではなく
“小説” と位置づけているのもいい。
「あそこに見える赤いお花は彼岸花って言うんよ。
曼珠沙華ってお名前がもう一つあるんよ。」
先日、道端を真紅に染める花の名前を
初めて教えた。
私が生んだふたりの男の子は
飴を舐めながらふーんと気のない返事を返してきた。