denimm日誌

雑記帳

繋がるバトン

9歳の次男がリビングで本を読む私に、

「お母さんが一番好きな本を書く人は誰なん?」

と、聞いてきた。

「いっぱいいるけどなぁ…」

と、言い淀んでいると

「今、読んでるのは誰の本なん?」

さらに聞いてきた彼に

「これ?これは西加奈子さんって人なんよ」

そう返すと

「お母さんは、にしかなこさんが好きなんだね?じゃあ、お母さんが次に欲しいにしかなこさんは何なん?」

 

今の次男くんの日本語、可笑しかったなぁなんて思いながら、

「ん〜、まく子…かなぁ」

「マクコ? なんで、マクコなん? 一番いいお話なん?」

「前に図書館から借りて読んでたんだけど、最後まで読み切る前に返却期限が来て、とりあえず返したんよ。

 でも、それ以来図書館から帰るたびに、あぁまた借りるの、忘れた〜ってなって、お話の最後いまだに知らないから、まく子読みたいんよ」

 

そこまで聞くと、

彼はふ〜んと一瞬なにかを考えるような表情を見せたが

また、こちらに背を向け宿題の続きをしていた。

 

その数日後に、「まく子」は私の元にやってきた。

次男からの私への誕生日プレゼントだった。

 

お小遣いをまだ与えられていない彼が

参加した将棋大会で入賞した時に

賞金としてもらった図書券で買ったものだった。

厚紙に書かれた手紙もそこには添えられていた。

 

労働賃金を生み出せない小学生が

自分で勉強して手にした将棋の賞金は

間違いなく彼の努力で手に入れたものだった。

そしてそれを使って、母に買ってくれた。

これは、甲斐性のあるイイ男認定していいだろう。

親バカと笑われてもいい。

嬉しかった。

 

ふと、ある記憶が思い起こされた。

私か高校生になって初めてバイトを始めたとき

本の好きだった祖父に図書券をあげたことがある。

 

祖父にとって初孫だった私も

本好きな小学生だった。

古典や最新のベストセラー本が並ぶ祖父の書斎は

わたしにとって好きな場所だった。

自分が集めた蔵書の中から

一冊一冊読み進めていく孫を

祖父もまた可愛がってくれた。

 

本を借りにいくたび

「もうこないだの本も読み終わったんか

えーで、どれでも持っていかれー」

そう言って、私に嬉しそうに

少し誇らしいような顔を見せてくれたことを覚えている。

 

図書券はたしか、3000円分で

適当なパッケージがなく

味気ない茶封筒に入れて渡したと思う。

 

品揃えの少ない小さな町の本屋では飽き足らず

毎週隣の市まで自転車で大きな書店に出かけるほど

本が好きだった祖父。

 

「孫から図書券やこーもらったのは初めてじゃ」

 

近所の人にまでそう言い周っていたあの日の祖父も

今の私のような気持ちだったのだろうか。

 

次男は、ふだん自分から本を読まない。

でも、赤ちゃんの頃から続く寝る前の

絵本の読み聞かせは嫌がらない。

これから本好きになっていくのか

本なんて読むのメンドクセーし!

なんてこれから言われてしまうのかは分からない。

 

でも、彼が嫌がる日が来るまでは

彼と絵本と私の夜は続けていこう。

(その日は、そう遠くないことも知っているけれど…)

まく子の表紙に描かれた猿に

そう誓う母だった。 

 

おじいちゃん、天国でわたしたちを見守ってね。

 


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