朝10時ごろ、出先にいた私の携帯が鳴った。
息子の通う中学からだ。
携帯に学校の表示が出るとき
いい知らせだった試しがない。
男子の母あるある のひとつだ。
我が子が何かをやらかしたか
我が子の身に時間を争う事態が起きたかの
どちらかである。
ドキドキして電話に出る。
「息子さんが気分が悪いというので
熱を測ってみたら37.3℃です。
今、保健室で休んでいますので
お母様、今からお迎えお願いできますか?」
どうやら息子が不始末をおかしたわけでも
大怪我を負ったわけでもなさそうだ。
それにしても
37.3℃・・・
腑に落ち切らないこの数字を
頭の中に漂わせながら、答える。
「すいません、今出先でして
すぐにはそちらに向かえません。
昼過ぎには伺えます。」
しばしの間の後、電話口の先生は
「お母さん、今
学校はインフルエンザが流行っています。
なんとかお願いできませんか?」
と、尚も急を要した口調の返事が返ってくる。
今すぐは無理だと再度伝えると
「分かりました。
もし、お子さん本人が歩けると言われたら
帰しても大丈夫ですか?」
さして距離のない我が家。
お願いしますと返事をして電話を切った。
私が慌てて用事を済ませ
家に戻ったその直後に息子は帰ってきた。
息子は、部屋で熱を測るとすでに36℃台だった。
体はだるい、少し関節が痛いというが
思いのほか元気で
布団に横になりなさい、という私に
お腹がすいたと訴える。
一人前のうどんでは足りず
更にチーズもちの追加注文までしてくる。
母親は子どもが元気なことをなにより望む。
私も、わが子の健康には何より関心がある。
しかし、この目の前にいる我が子の状態と
大人たちの対応の温度差は何なのだ。
我が子は六年間の小学校生活を
ほぼ皆勤賞で終わらせている。
仮病という二文字は考えずらかった。
けれど、母親の私が理解できないことも
増えてきた微妙なお年頃だ。
先生も親である私も
思春期特有の気まぐれで刹那な倦怠感に
付き合わされているのではないか・・・
そもそも、37.3℃って平熱内じゃないのか
出先の親が慌てて迎えに行かなきゃダメなの?
37.5℃以上が園の登園不可の数字じゃなかったっけ?
先ほどの電話の先生との会話で
口にできなかった本音が
時間差の分だけ
輪をかけて脳内を駆け巡る。
今更それを
自宅に帰った息子に言っても仕方がない。
心の声をグッと吞み込んで
「先生がインフルエンザが流行ってるって
言われていたから
もう部屋から出ないこと。
用事があるならこれを使いなさい」
そう言って、携帯を渡し
一応、子ども部屋に隔離することにした。
夕方の自宅にかかってきた電話口の先生からは
明日、36℃台なら、登校させてください。
できれば、今日中に病院で
インフル検査を受けてください
と、言われたのだった。
私はその時
看護士をしている友人の言葉を思い出した。
インフルエンザにかかってなくても
受診するのは体調の万全ではない人、
抵抗力が落ちている人が受診するから
病院内でインフルエンザ羅漢者のウィルスを
もらいやすい‥‥
身体のだるさ、37.3℃、食欲旺盛、歩いて帰れる体力・・・
今、彼はインフルエンザに
羅漢している可能性は極めてグレーだ。
でも、体調が万全ではないことは確実。
考えた末、私は夕方は病院に行かず
一晩様子を見ることにした。
渡した携帯は夜中に鳴ることはなかった。
水分もしっかり摂れたようだ。
次の日の朝。
体温計は36.5℃。
出した朝食を完食した息子に
私は心から安心した。
「さあ、早く〇〇くん、制服着て。学校に遅れるよ♪」
意識せずとも
語尾がハートマークや音符を付けてしまう。
すると、息子は
「こんなしんどいのに
学校やこー、行けるわけねかろう!!!」
えええーーーー!!!!!
うそでしょ。
「あんた、36℃よ!
学校に行かんでいいわけないじゃろ!!!」
そこからは、昨日からの気持ちも乗っかった、
親子バトルが展開された。
平行線の主張は
第三者の権威で治める事にした。
病院に行って、お医者さまが
あなたは大丈夫です、学校を休むほどはどこも悪くありません。
そう言われたなら、学校に行きなさい、
と言う母に、息子はしぶしぶながら車に乗った。
病院ではっきり “キミは元気” と
お墨付きをもらえれば納得するだろう。
もう不毛なやり取りはごめんだ。
君の母はバトルは苦手分野なのだよ。
付き合いたまえ。
早めに来てよかった。
今日一の患者のようで、私たちはすぐに呼ばれた。
初めてのインフルエンザ検査は
少し痛かったようだが
泣いて訴えるほどの幼さは
彼はもう残していない。
隔離された部屋に通され
痛い?大丈夫?と聞く母に
テイッシュで鼻を押さえながら
「まあ、ちょっとだけな」
と答える息子が、
少し可愛いなあと母は思う。
ほどなく私だけが、先生の元に呼ばれた。
「A型です。登校は来週火曜日からですね」
·············
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
お医者さまにとって
日常のありふれた台詞であろう言葉を
抑揚のない口調で私は告げられた。
なんとも、今年のインフルエンザは低体温。
ずーーーーっと。
息子は家では1度も37℃台にさえなってない。
食欲も奪いません。
昨日なんて、息子は天ぷら食べたいって。
ご飯もお代わり折り込み済みの
どんぶり鉢で出したけど
ドアの前に返された鉢は空っぽ。
息子はことのほか元気で、
大いばりで部屋で漫画読んでます。
インフルエンザってなんだったっけなあ?
おしまい。