当日、仕事に出ていく父親に
優勝宣言して将棋大会に臨んだ次男。
7歳のビッグマウスを
私は微笑ましく見ていた。
14歳の藤井棋士の影響もあってか
最近の将棋教室は参加者の増加が著しい。
その中を大会に参加した子ども達は
皆よく勉強してきた強い子が多かった。
次男は苦戦しながらも
四局目を勝ち
二勝二敗で勝ち越しに望みを繋いだ。
将棋は
勝った者が勝ちどきの声をあげるのではなく
負けた者が “負けました” と
頭を下げ自らの負けを声に出して
試合の幕を閉じる競技である。
そして、今大会では
一人づつに配られた対局カードは
勝った者が審判の元へ
二枚のカードを持っていくことになる。
勝者にカードを渡した負者は
席にそのまま残り
駒を初期配置に戻すのである。
五局目が終わった。
次男は席を立てなかった。
彼は駒配置を戻さなければならない。
盤から離さない視線が
次男の負けた悔しさを語っていた。
父親に放った言葉は
無邪気な戯れ言ではなかったのだ。
駒を握る小さな手が
どこで指し間違えたのかと
確かめるように
ひとつひとつゆっくり盤に戻していく。
駆け寄って声をかけようかと一瞬思ったが
わたしは席に座り直した。
子どもの勝負の結果に
親は出来るだけ無関心でいる方がいい。
子どもがこちらを見た時に
笑って手を振ってやればいい。
現実にひとり向き合おうとする君に
すんでのところで
私は傲慢で無神経な母親にならずにすんだ。
大きくなったね、君は。
お母さんが思うよりも
ずっとずっと早く。
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